深夜のエレベーターが14階で止まった日
2026年08月10日
実は先月末の話なんだけど、同僚のKが教えてくれて、正直「それやばい」と思ったので書く。
Kは港区のビルで一人で残業しているプログラマー。32階建てのオフィスビルの28階フロアで、夜中にコードを書いている。普段は21時頃には帰るタイプだけど、この日だけ納期で23時半頃まで残ったという。
エレベーターホールに着いたのは23時52分頃。ビル内は完全に暗くなり、廊下の誘導灯だけがポツンと光っている。Kは地下1階の駐車場に行きたいので、地下行きのエレベーターを呼んだ。
「1階→地下1階」のボタンを押して待つこと30秒。エレベーターが到着し、ドアが開くと、中は明るく清潔だった。Kは乗り込んで「B1」を押した。
ドアが閉まり、エレベーターが動き出す。1階。2階。3階。
そして5階で、ふとKは気づいた。
エレベーターの階数表示が「5」のままで、止まっているのだ。
「一時的な故障か」と思い、再度「B1」を押したが反応しない。非常ボタンも押したが、プッシュしても音すらしない。
その時、Kは別のことに気づいた。
エレベーター内の温度が、徐々に下がっている。
最初は気のせいだと思った。でも冷たくなるのがわかる。息が白く立ち始めて、指先が痺れてくる。Kはジャケットを着ていたが、それだけでは耐えられない寒さだった。
そして6階で、また止まった。
この時、Kはエレベーターの隅にある小さなモニタに気づいた。セキュリティカメラの映像が映っていて、今自分が乗っているエレベーターの内部が映っているはずなのに——
映っているのは、別のフロアのエレベーターホールだった。
暗い廊下。壁には「4階」の表示。そして、壁に何か黒いものが付着している。人の形をしている。
Kが「ちょっと、これ何だ」と言いかけた瞬間、モニタの映像が切れた。
その時、エレベーターの扉がパチパチと音を立てて、わずかに開いた。
開いた幅は10センチくらい。外は完全に暗い。何も見えない。でも、息遣いが聞こえた。
自分より5階下から、上向きに上がってくる、湿った息遣い。
KはB1のボタンを必死に連打した。そして、自分のスマホの懐中電灯を扉に当てて外を覗いた。
暗い。でも、床は乾いていた。水たまりもない。でも、冷たい。
冷たすぎる。
その時だった。
エレベーターが動き出した。
階数表示が次々と変わっていく。7階、8階、9階——
上がっている。
「地下に行くはずなのに、何で上がっている」とKは思った。でもエレベーターは止まらない。10階、11階、12階。
そして14階で、ぴたりと止まった。
ドアが開く。
外には、Kのフロアだった。
28階ではない。Kが普段働いているフロアでもない。14階のフロアだった。
14階には誰もいないはずだ。そのフロアは空きフロアで、鍵がかかっている。
でも今、14階のフロアからは、明るい光が漏れていた。
そして、フロアの奥から、キーボードを打つ音が聞こえた。
カチカチカチ。
Kはエレベーターの中にいた。扉は開いたまま。外に出るべきか、閉じるべきか、迷っている間に——
キーボードの音が、止まった。
そして、14階のフロアの奥から、足音が聞こえてきた。
カシャカシャカシャカシャ。
近づいてくる。
Kは後ずさりして、ようやくB1のボタンを押した。エレベーターのドアが閉まり、地下へ降り始めた。
Kは震えながら、スマホでビル管理会社に電話した。
「今、エレベーターが14階で止まって……」
管理会社の担当者が言った。
「14階? 失礼ですが、そのビルに14階は……ありませんよ」
Kが振り返った。
エレベーターの階数表示パネルには、確かに「14」と書かれていた。
でも、Kがそのビルに入社した時、フロアマップを見たことがある。
28階建てのビルに、14階はない。
13階の次は15階に飛ぶ。13階と15階の間に14階はない。
Kはその時、ふと気づいた。
今、自分が乗っていたエレベーターの階数表示は、14階を表示していた。
でも14階が存在しないなら——
どこで止まったのか。
Kは地下1階に着いた時、エレベーターの壁に付いていた小さなモニタを思い出した。
そこに映っていたのは、別のエレベーターの内部だった。
でも、もし14階が存在しないなら——
モニタに映っていたのは、もしかしたら「今、自分が乗っているエレベーターの内部」だったのかもしれない。
Kはもうそのビルには行かないと言う。
でも、一番恐いのはそこじゃない。
Kが14階のフロアで聞いたキーボードの音。
その音は、K自身のタイピング音にそっくりだった。
Kは自分のノートパソコンのキーボード音をよく知っている。同じ機種を使っている。同じ打ち方をする。
誰かがKの音真似をしていた。
※この記事はフィクションですが、日本のオフィスビルで実際に起きたとされるエレクトリックホラーの一種です。深夜のビルでエレベーターに乗る際は、階数表示をよく確認することをお勧めします。