13 14 15 16 存在しない階

実は先月末の話なんだけど、同僚のKが教えてくれて、正直「それやばい」と思ったので書く。

Kは港区のビルで一人で残業しているプログラマー。32階建てのオフィスビルの28階フロアで、夜中にコードを書いている。普段は21時頃には帰るタイプだけど、この日だけ納期で23時半頃まで残ったという。

エレベーターホールに着いたのは23時52分頃。ビル内は完全に暗くなり、廊下の誘導灯だけがポツンと光っている。Kは地下1階の駐車場に行きたいので、地下行きのエレベーターを呼んだ。

「1階→地下1階」のボタンを押して待つこと30秒。エレベーターが到着し、ドアが開くと、中は明るく清潔だった。Kは乗り込んで「B1」を押した。

ドアが閉まり、エレベーターが動き出す。1階。2階。3階。

そして5階で、ふとKは気づいた。

エレベーターの階数表示が「5」のままで、止まっているのだ。

「一時的な故障か」と思い、再度「B1」を押したが反応しない。非常ボタンも押したが、プッシュしても音すらしない。

その時、Kは別のことに気づいた。

エレベーター内の温度が、徐々に下がっている。

最初は気のせいだと思った。でも冷たくなるのがわかる。息が白く立ち始めて、指先が痺れてくる。Kはジャケットを着ていたが、それだけでは耐えられない寒さだった。

そして6階で、また止まった。

この時、Kはエレベーターの隅にある小さなモニタに気づいた。セキュリティカメラの映像が映っていて、今自分が乗っているエレベーターの内部が映っているはずなのに——

映っているのは、別のフロアのエレベーターホールだった。

暗い廊下。壁には「4階」の表示。そして、壁に何か黒いものが付着している。人の形をしている。

Kが「ちょっと、これ何だ」と言いかけた瞬間、モニタの映像が切れた。

その時、エレベーターの扉がパチパチと音を立てて、わずかに開いた。

開いた幅は10センチくらい。外は完全に暗い。何も見えない。でも、息遣いが聞こえた。

自分より5階下から、上向きに上がってくる、湿った息遣い。

KはB1のボタンを必死に連打した。そして、自分のスマホの懐中電灯を扉に当てて外を覗いた。

暗い。でも、床は乾いていた。水たまりもない。でも、冷たい。

冷たすぎる。

その時だった。

エレベーターが動き出した。

階数表示が次々と変わっていく。7階、8階、9階——

上がっている。

「地下に行くはずなのに、何で上がっている」とKは思った。でもエレベーターは止まらない。10階、11階、12階。

そして14階で、ぴたりと止まった。

ドアが開く。

外には、Kのフロアだった。

28階ではない。Kが普段働いているフロアでもない。14階のフロアだった。

14階には誰もいないはずだ。そのフロアは空きフロアで、鍵がかかっている。

でも今、14階のフロアからは、明るい光が漏れていた。

そして、フロアの奥から、キーボードを打つ音が聞こえた。

カチカチカチ。

Kはエレベーターの中にいた。扉は開いたまま。外に出るべきか、閉じるべきか、迷っている間に——

キーボードの音が、止まった。

そして、14階のフロアの奥から、足音が聞こえてきた。

カシャカシャカシャカシャ。

近づいてくる。

Kは後ずさりして、ようやくB1のボタンを押した。エレベーターのドアが閉まり、地下へ降り始めた。

Kは震えながら、スマホでビル管理会社に電話した。

「今、エレベーターが14階で止まって……」

管理会社の担当者が言った。

「14階? 失礼ですが、そのビルに14階は……ありませんよ」

Kが振り返った。

エレベーターの階数表示パネルには、確かに「14」と書かれていた。

でも、Kがそのビルに入社した時、フロアマップを見たことがある。

28階建てのビルに、14階はない。

13階の次は15階に飛ぶ。13階と15階の間に14階はない。

Kはその時、ふと気づいた。

今、自分が乗っていたエレベーターの階数表示は、14階を表示していた。

でも14階が存在しないなら——

どこで止まったのか。

Kは地下1階に着いた時、エレベーターの壁に付いていた小さなモニタを思い出した。

そこに映っていたのは、別のエレベーターの内部だった。

でも、もし14階が存在しないなら——

モニタに映っていたのは、もしかしたら「今、自分が乗っているエレベーターの内部」だったのかもしれない。

Kはもうそのビルには行かないと言う。

でも、一番恐いのはそこじゃない。

Kが14階のフロアで聞いたキーボードの音。

その音は、K自身のタイピング音にそっくりだった。

Kは自分のノートパソコンのキーボード音をよく知っている。同じ機種を使っている。同じ打ち方をする。

誰かがKの音真似をしていた。


※この記事はフィクションですが、日本のオフィスビルで実際に起きたとされるエレクトリックホラーの一種です。深夜のビルでエレベーターに乗る際は、階数表示をよく確認することをお勧めします。