いつもの帰り道
2026年05月28日
毎晩、同じ道を歩いて帰る。
会社の最寄り駅からアパートまで、徒歩12分。信号が3つ、コンビニが1つ、公園の横を通る。いつも通り。
今日も疲れて、スマホを見ながら歩いていた。
ふと気づくと、いつもより道が少し静かだった。人の気配が少ない。
「まあ、平日だしな」と思って、いつもの公園のベンチの前を通り過ぎた。
そのとき、ベンチに座っている自分の姿が見えた。
同じ服、同じカバン、同じ疲れた顔で、スマホを見ている。
ベンチの「私」は、ゆっくり顔を上げてこちらを見た。
目が合った。
微笑んだ。
私は足を止めた。心臓が早鐘のように鳴る。
ベンチの「私」が立ち上がって、こっちに向かって歩き始めた。
私は慌てて後ずさり、走り出した。
息を切らしてアパートに着いた。鍵を開けて部屋に入り、ドアを閉めて鍵をかけた。
はあはあと息を整えながら、カーテンを少し開けて外を見た。
自分の姿が、道の向こうからゆっくり歩いてくるのが見えた。
いつもの帰り道を、正確に12分のペースで。
スマホを見ながら。
そして、アパートの入り口で立ち止まり、こちらを見上げた。
鍵の音がした。
カチャリ。
私はまだ、ドアの内側に鍵をかけていたはずなのに。
玄関のドアが、ゆっくり開き始めた。
「ただいま」
聞き慣れた自分の声が、廊下から聞こえた。