毎晩、同じ道を歩いて帰る。

会社の最寄り駅からアパートまで、徒歩12分。信号が3つ、コンビニが1つ、公園の横を通る。いつも通り。

今日も疲れて、スマホを見ながら歩いていた。

ふと気づくと、いつもより道が少し静かだった。人の気配が少ない。

「まあ、平日だしな」と思って、いつもの公園のベンチの前を通り過ぎた。

そのとき、ベンチに座っている自分の姿が見えた。

同じ服、同じカバン、同じ疲れた顔で、スマホを見ている。

ベンチの「私」は、ゆっくり顔を上げてこちらを見た。

目が合った。

微笑んだ。

私は足を止めた。心臓が早鐘のように鳴る。

ベンチの「私」が立ち上がって、こっちに向かって歩き始めた。

私は慌てて後ずさり、走り出した。

息を切らしてアパートに着いた。鍵を開けて部屋に入り、ドアを閉めて鍵をかけた。

はあはあと息を整えながら、カーテンを少し開けて外を見た。

自分の姿が、道の向こうからゆっくり歩いてくるのが見えた。

いつもの帰り道を、正確に12分のペースで。

スマホを見ながら。

そして、アパートの入り口で立ち止まり、こちらを見上げた。

鍵の音がした。

カチャリ。

私はまだ、ドアの内側に鍵をかけていたはずなのに。

玄関のドアが、ゆっくり開き始めた。

「ただいま」

聞き慣れた自分の声が、廊下から聞こえた。